不定時法に対応するため、和時計は世界に類を見ない独自のメカニズムを生み出しました。その心臓部が「天符(てんぷ)」です。一挺天符から二挺天符への進化は、日本の時計技術の最高到達点を示しています。
棒てんぷとは――和時計の速度を制御する部品
和時計の速度を制御するのが「棒てんぷ」です。西洋の機械式時計ではゼンマイの力を歯車で伝え、「てんぷ」と呼ばれる部品の往復運動で速度を一定に保ちます。和時計でも同じ原理ですが、不定時法に対応するため棒状のてんぷを採用しました。
棒てんぷの両端には小さな分銅が付いています。この分銅の位置を内側に寄せると往復が速くなり、時計は早く進みます。外側に広げると往復が遅くなり、時計はゆっくり進みます。分銅の位置を変えることで、不定時法の季節変動に対応したのです。
一挺天符――毎日2回の手動調整が必要だった初期型
初期の和時計は「一挺天符(いっちょうてんぷ)」と呼ばれる方式を採用していました。棒てんぷが1本だけ搭載されており、昼と夜で毎日2回、手動で分銅の位置を移動させる必要がありました。
不定時法では昼と夜で一刻の長さが異なります。昼の一刻が長い夏は、昼の間は分銅を外側に寄せて時計をゆっくり進め、夜になったら内側に寄せて速く進める。この調整を日の出と日の入りのたびに行わなければなりませんでした。一挺天符の和時計は、使い手にかなりの手間を求める仕組みだったのです。
二挺天符――自動切り替えを実現した画期的発明
17世紀末、和時計の歴史を変える発明が生まれます。「二挺天符(にちょうてんぷ)」です。昼用と夜用の2本の棒てんぷを内蔵し、日の出と日の入りのタイミングで自動的に切り替わる仕組みを実現しました。
昼用のてんぷは昼の一刻に合わせた分銅位置に設定し、夜用は夜の一刻に合わせて設定します。切り替えは時計内部の歯車機構によって自動で行われるため、一挺天符のような毎日2回の手動調整は不要になりました。
ただし、季節が進むにつれて昼夜の長さが変わるため、分銅の位置は定期的に調整する必要があります。この調整は二十四節気ごと、つまり年に24回行えばよく、一挺天符の年730回に比べれば劇的な改善でした。
二挺天符が世界の時計史で特異な理由
二挺天符は、世界の時計史においても極めて特異な発明です。西洋では不定時法が早くに廃れたため、時計を不定時法に対応させる技術的な挑戦自体が存在しませんでした。
日本だけが不定時法を数百年にわたって公式に使い続けたため、機械式時計で不定時法を実現するという、世界でも唯一の技術課題に取り組むことになったのです。二挺天符は、その課題に対する最も精巧な解答でした。
現代でも和時計は国内外のコレクターに高い人気を持ち、その精巧なメカニズムは高く評価されています。
和時計のメカニズムを体感する
当サイトの「浮世之刻」では、二挺天符の原理をデジタルで再現しています。昼と夜で和時計の針の速さが自動的に変わる様子は、まさに二挺天符の動作原理そのものです。

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